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2024/07/18

「台湾のサーキュラー・ソーシャルデザインに会いに行く旅」2日目 サーキュラーエコノミーから“問い”の大切さを学ぶ

このたび、社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を運営する株式会社ハーチさんが主催するツアー「台湾のサーキュラー・ソーシャルデザインに会いに行く旅『Repair Our Futures〜つなぎ直す未来〜』」にDIOメンバー全員で参加しました。

台湾では1974年に廃棄物清理法(廃棄物処理法)が制定されて以来、廃棄物の削減やリサイクルなどの取り組みが法整備を含めて推進されてきました。基盤が整備され、経済や安全保障の点からも必要に迫られていることを背景に、官民一体となった“サーキュラーエコノミー”への移行対応が急速に進められています。

今回の旅では、3泊4日の行程で、ソーシャルデザインを実践する台湾の10の企業や団体を訪ねました。旅のテーマは「Repair Our Futures〜つなぎ直す未来〜」。果たして、“つなぎ直される”のは、地球なのか、環境なのか、それとも、人の心なのか…。

1日目に台湾デザイン研究院(TDRI)さんでの学びに大いに刺激を受けたDIOメンバー3人。2日目は朝早い集合&スタートでしたが、台湾屈指のサーキュラーエコノミー先進企業を訪問できるとあり、疲れを感じない興奮状態の中、移動起点の駅へと向かいました。

【2日目 視察先】

1.春池ガラス

1981年の設立以来40年以上、廃棄ガラスの回収とガラス製品の製作を行い、ガラスリサイクルの新たな価値を創造している企業。近年はサーキュラーエコノミーの実践を経営目標に、台湾国内の70%以上の使用済みガラスを回収し、その全てを製品にするなどして再利用している。ガラスという比較的循環させやすい素材の魅力を伝えるために、ジャンルの異なる団体と協力して、アート・伝統芸術・観光などさまざまな形での回収ガラスのデザインを実践・実験をしている。

2日目は、朝早くに宿泊ホテルを出発し、台北中心地から新幹線とバスを乗り継いで、新竹(しんちく)エリアにある春池ガラスの会社と工場へ。「一人ひとりのリサイクル活動から、社会全体の<循環>活動へ。」をコンセプトに、台湾全体の70%の使用済みガラスを回収して、アップサイクルをしています。彼らの取り組みが、2021年、第11回の「総統文化賞」を受賞、2023年には彼らが主催するイベント「Galas Festival – The Public, Open-source, and Sustainable Festival.」でグッドデザイン賞を受賞しました。

設立以来、使用済ガラスの回収とOEMを手掛けていた春池ガラスですが、海外生産品の需要が高まると、事業は一気に苦境に陥ったそうです。そこで「W春池計画」を立ち上げ、事業を転換。伝統産業に新しい価値をもたらす活動をスタート。商品づくりだけでなく、展示・販売イベント、地域おこしまで手掛け、国際的なブランドとコラボしたり、「グリーン&サステナビリティ」を実現するためのさまざまなプラント循環モデルを構築したり、活動領域が広がっています。

特に印象的だったのは、副社長の呉 庭安氏の口から「琉球ガラス」の話が出たこと。彼らの作品の中にはガラスの中に気泡を残す技法を施しているものもあるのですが、それらはまさに、琉球ガラスの作家さんたちが古来育んできた技法そのものでした。

その後、回収してきた使用済ガラスを作品に加工する工場を見学しました。

事業転換の際に掲げた「W春池計画」は、“リサイクル”と“創造”という、一見矛盾する2つを結び、意義深い“無限の循環”を生み出していること、また、日本統治時代に私たち日本人の先祖が台湾の方たちに伝えたガラス工芸の文化が、脈々と、そして、時代に合わせてサーキュラーエコノミーの重要な一端を担っていることに、深く感銘を受けました。

2.O’right

使用後に土に埋めるとコーヒーの木が育つシャンプーボトル、製造過程で温室効果ガスの排出量の合計を実質的にゼロにする世界初のゼロカーボンシャンプーのほか、ボディケア関連の製品を開発、また、製造工場やオフィスなどにも徹底的に環境や人に優しい取り組みを行う、台湾発のヘアケア製品メーカー。創業は2006年。

次のO’rightでは、到着時から圧倒されっぱなしでした。私たちを出迎えてくれたO’rightの社屋ビルは「グリーンビル」と呼ばれ、約2年を費やしてこの土地を選び、1年間をかけて朝晩の日照角度と風向きを観察・研究を重ねて緑と共存する本社ビルの設立に成功しました。ビルの屋上には風力発電、太陽光パネル、植物でできた緑のカーテンがあり、建物周囲の植物は全て元々生息していたものという徹底ぶりです。また、執務エリアのガラス窓は全て窪んだかたちに設計し、直射日光を遮断することで室内の温度が上がらないように配慮。涼しく快適な環境にすることで冷房の使用を最小限に抑えているそう。

そんな社屋に出迎えられた私たちは、主任のHsiu Ming Hsieh氏の案内でアースルームと呼ばれる会議室に入ると、大きなスクリーンに、韓国滞在中の、O’rightの創設者・スティーブン(葛望平)氏が! 画面越しに私たちの訪問を歓迎していただき、「いま皆さんが座っているその席には、世界中のお偉方が座ったことがあるよ」と、冗談交じりに世界の錚々たる人たちがO’rightを視察していることを教えていただきました。

Hsiu Ming Hsieh氏のプレゼンテーションで印象に残ったのは、「私たちは、全てのアクションで“問い”を大事にしている」という部分。「“Who we are?” 自分たちが誰かを、挑戦的に問い掛けることが大事。問い続けた結果、彼らは単なるヘアケアスキンケア会社ではなく、人、社会、環境をつなぐ存在となり、世界の4倍の速さで温暖化が進んでいるグリーンランドの様子を伝えるドキュメンタリーをつくるなど、「誰もが参加できる気候アクション」を模索しています。その「A 23-day expedition to Arctic Greenland:A Sincere Call for Environmental Education」の取組は、気候に対する人々の意識を目覚めさせたとして「グッドデザイン・ベスト100」を受賞しました。

プレゼンテーションの後は、O’rightのオフィスを見学。空調利用を最小限にする工夫をはじめ、街灯を再利用した電気スタンド、空き瓶を利用した照明、クレーンゲームを再利用したフォンブースなどアップサイクルをしたアイテムがオフィスを彩る、楽しい空間でした。

【2日目を終えて】

この日は、サーキュラーエコノミーを実践する企業としては台湾でもトップクラスの2社を訪問しました。特に感銘を受けたのは、日本でも数々のサロンが採用する台湾発のヘアケア製品メーカー・O’rightの「問い」の投げかけ。

この数日前に、DIOのメンバーで参加した、システム思考のセミナーでも同じく「“問い”が大切」と学んだばかりでした。考えてみると、webサイトの検索で記入するワードも“問い”ですし、最近ではチャットGPTに入れるプロンプトも“問い”と言えます。“問い”は、社会課題の面だけでなく、私たちが仕事や生活をする上でもとても大切なアクションの1つになっているのだな、と痛感した次第です。私たちの仕事1つ1つにおいても“問い”を大事にしていきたいものです。

次回は、3〜4日目の視察内容をお伝えします。

写真:(C)KENICHI SASAGAWA