このたび、社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を運営する株式会社ハーチさんが主催するツアー「台湾のサーキュラー・ソーシャルデザインに会いに行く旅『Repair Our Futures〜つなぎ直す未来〜』」にDIOメンバー全員で参加しました。
台湾では1974年に廃棄物清理法(廃棄物処理法)が制定されて以来、廃棄物の削減やリサイクルなどの取り組みが法整備を含めて推進されてきました。基盤が整備され、経済や安全保障の点からも必要に迫られていることを背景に、官民一体となった“サーキュラーエコノミー”への移行対応が急速に進められています。
今回の旅では、3泊4日の行程で、ソーシャルデザインを実践する台湾の10の企業や団体を訪ねました。旅のテーマは「Repair Our Futures〜つなぎ直す未来〜」。果たして、“つなぎ直される”のは、地球なのか、環境なのか、それとも、人の心なのか…。
学びのツアーも折り返しの3日目。朝から夜の懇親会まで長い1日の始まりです。
【3日目 視察先】
1.古風小白屋
2013年にオープンした台北の路地にある修理小屋。ここで働くスタッフは全てボランティアで、「簡易労働」と「資源再生」の2つの目的を共有する場(拠点)としてつくられた。台湾には修理文化が根付いていて、市場に行くと服や家電などの修理店がところどころに見られる。それらとここの大きな違いは、“お金を介さない”ということ。修理も相談も全て無料! 現在は、修理にとどまらず、道具や工具のレンタルサービスも実施している。
【古風小白屋での学び】
・地域の高齢者の役割を与える場としての機能
・地域特性に合わせた循環型経済の実験場
3日目は、台北の大安区にあるちょっと変わった施設へ。ここは台湾に根付いた「修理」をキーワードにつながるコミュニティ。ここで働く人たちは、なんと全員がボランティアです! にもかかわらず、ここには毎日スタッフや利用者が集まってきます。そして、週末には「家庭で出た廃油をどう利活用するか」というテーマで洗剤をつくるワークショップを行うなど地域住民を対象にしたイベントも催され、そこにも多くの人が訪れます。
例えば、家で電気製品が壊れて困っている人がここに来て人生の先輩方にアドバイスを受けながら修理をする、一方で高齢者は若い人の役に立つことで生きがいになっていると言います。
「金銭」ではなく「修理」で人々がつながっていること、人々が強制ではなく自主的にこの場に集まっていること、それが、循環型経済の原型となっていて、かつ、高齢者の孤立という社会課題を解決する1つの手段になっていることが、とてもプリミティブにもかかわらずこの場所のかけがえのない魅力になっていることを目の当たりにしました!
このモデルを沖縄に持ってくるとしたら、「何」を媒介にすれば成立するのだろうか。先日、沖縄の那覇市内に、こどもの居場所と高齢者の働く場をミックスしたコミュニティーが誕生しました。地域の人々に喜ばれる物やサービスを住民自身で考え、事業化に結び付けることを目標にしたこのコミュニティーが、今後どう進化していくのか、“沖縄版の古風小白屋”になるのか、見守っていきたいと思います。
それにしても、驚いたのが、ここで働くスタッフの生き生きとした表情! 資本主義経済を超越した幸せがここにはある、そう感じた場所でした(実際に、ツアーメンバーの振り返りミーティングで「古風小白屋」が一番印象に残ったという人が続出でした)。
2.台電文創・TP Creative
1946年に創業された、台湾唯一の公営電力会社「台湾電力」。同社のサーキュラーエコノミー視点の取り組みを見学。1つ目は、台湾電力内の社内ベンチャー 「台電文創 TP Creative」が行う、電気設備の廃棄物のアップサイクル商品。変電箱の板を型抜きしてつくった鍋敷や火力発電所の灰でつくったコースターなど製品は多岐にわたる。
2つ目は、彼らのオフィスにある再生エネルギーの発電の原理を伝えることを目的とした「ENERGYM(エネルギージム)」。さまざまな発電方法を、身を持って体感することができる施設となっている。
【台電文創・TP Creativeでの学び】
・電力会社だからこそできる社会との新しい向き合い方
・デザインは顧客とのコミュニケーションを促す装置
続いては、公営電力会社の台湾電力が、アート、文化、デザインの力を使って、国民と対話をしている事例を学びました。
まずは、台湾電力の社内ベンチャー「台電文創 TP Creative」の取り組みです。変電箱の板を型抜きして1つ1つ違う表情を持つ鍋置き、社会課題になっている台湾最大の湖に溜まってしまう泥を使った鉛筆、電信柱の木材をリユースしたデスクライトなど、廃棄される電機の部品にデザインの力を付与してアップサイクルし、価値を伝えるアイテムに変容していく取り組みをしています。
続いて、再生エネルギーの発電の原理を伝えることを目的とした「ENERGYM(エネルギージム)」について学習。照明を落とした空間で、ゲーム感覚で電気のことを学べる施設として、地域の子どもたちが親御さんたちと楽しく過ごしていました。
台湾電力がデザインに注力をするようになったのは、今から10年前のこと。電気代を上げざるを得なかった局面があり、国民の反発が大きくなったそう。その時に、これまでのような電気の重要さだけでなく、台湾電力のヒューマニティー、環境への想い、台湾の先人が育んできた文化への想い、それらを伝えるために、この時から「デザイン」の力を信じて活用し続けているそうです。
こうした社会のインフラを支える企業は、利用者にいかに広く、かつ、正確に情報や自分たちの想いを伝えられるかが大事なこと。そこにソフトパワーとしてデザインを使うことで、その“伝わる力”がより早く、より正確になることを台湾電力のスタッフはしっかりと感じ取り、自分たちの仕事に誇りを持っていることが伝わってくる、そんなプレゼンテーションに感銘を受けました。
3.REnato lab
気候変動や環境汚染への課題意識をベースに、企業向けに、循環型経済の原則に沿ったサーキュラーエコノミーのソリューション開発支援を行っている。創業者・王家祥氏は、1999年に台湾のリサイクルシステムを考案したという異才。ラボには科学、デザイン、ビジネスの分野横断的な専門家が在籍し、サーキュラーストラテジーの構築サポートのみならず、CO2排出量の推移やリサイクル素材の独自研究開発も行っている。
【REnato labでの学び】
・まずはゴミをサーキュラーエコノミーのサイクルに戻すことから考える
・サーキュラーエコノミーはバリューチェーンが重要
3日目の最終訪問企業は、台湾企業に対して、サーキュラーエコノミーのコンサルを行っている「REnato lab」さん。彼らは独自のリサイクルシステムやこれまでのノウハウを駆使して、経済循環のサークルの中から、気候変動や環境汚染への課題解決に向けた介入のポイントを見つけ出し、アドバイスしています。
最近は台湾企業からどのような相談が多いのかを伺ったところ、環境条例など法令に引っ掛かる点はないかの確認、環境負荷を回避した上でかつコストを下げたい、環境への配慮をすることで企業ブランド価値を上げたいなど、非常に多岐にわたっているそうです。
サーキュラーエコノミーは「その商品が使い終わった時点でどんな状態になっているのか、から考える」という言葉が特に印象に残りました。ゴミとなった商品を、いかにしてサークルの循環に戻すことができるか。それは商品の素材を変えることで可能になるかもしれないし、デザインを変えることで循環型経済を達成できるかもしれない。これからの商品開発の視点として、大いに刺激を受けました。
【4日目 視察先】
1.5% Design Action
世界各地のさまざまな分野のデザイナーや専門家を募り、「空き時間の5%を社会課題の解決のために使おう!」と呼びかけるプロジェクトを行うソーシャルデザイン・プラットフォームを運営している。教育、健康、環境、経済の4大課題に焦点を当てて、課題に関連する公共セクター、NPO組織、民間セクターとデザイナーや専門家をつなぎ、イノベーションの可能性と解決策を見出すべく活動している。
【5% Design Actionでの学び】
・小さなアクションから大きなアクションへつなげる
・サーキュラーエコノミーは教育的な観点も必要
4日目は、台湾デザイン研究院のある松山文創園区にて、5% Design Action代表のKevin(ケビン)氏のプレゼンテーションを拝聴しました。ケビン氏がこの事業を立ち上げたのは、今は元気に回復された奥さまの病気がきっかけだったそうです。そこで、それまで受診率の低かった乳がん検診を、どうしたら受けたくなるかを考えて検診トラックにポップなデザインを施しました。さらに、がんに関するウェブサイトをつくり、AIが判断して患者の症状別に表示がカスタマイズされ、情報を提供してくれる仕組みも構築。「奥さまの病気でがんに関するリデザインに出会えた」という言葉が心に響きました。
ほかにもさまざまなウェブサイトやサービスを立ち上げていますが、それを国民にどう広めているのかが気になりましたが、「メディアともアライアンスを組んでいる」とのこと。メディア企業にとってもケビン氏の活動を報じることでCSR的な効果が生まれ、互いにwin-winの関係性を築いていることは、私たちにとっても取り組みの拡散を考える上でのヒントをいただけました。
さらに、ケビン氏は、3年前サーキュラーエコノミーについてトークをした時に教育も必要だと感じ、昨年、「永続教科書」と命名したウェブ上の教科書を制作。次世代に伝えていくアクションを起こしています。
初日に伺った台湾デザイン研究院(TDRI)さんも学生の時点からの人材育成に力を入れていると聞きました。DIOでも3つのミッションの1つに「デザインマインドを持つ人材の育成支援」を掲げています。沖縄でもデザインマインドを持つ人たちが増え、イノベーション人材が育つ地域になることを目指していくことを、しっかりと促進していくことを誓った最終日でした。
【3日目・4日目、旅を振り返って思うこと】
3日目、4日目(最終日)は、デザインの持つチカラを再確認して、デザインマインドを持つ人材を増やしていくことの大切さを改めて学んだ2日間でした。DIOのミッションは、大きく「起業支援」「地域課題の解決」「人材育成」の3つ。そして、3つのミッションに共通していることは、「デザイン的な視点」です。クリエイティビティあふれる豊かな沖縄の未来を想像しながら、これからも1つ1つのプロジェクトに真摯に向き合い、「デザインの力で、沖縄をもっと前へ」進めていく一助になれるよう、改めてDIOメンバーで再確認をいたしました。
あらためて、今回の旅を企画していただいた、株式会社ハーチさん、台湾デザイン研究院(TDRI)さんにお礼申し上げます。ありがとうございました。